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土石なだれ
http://www.rekihaku.ac.jp/kenkyuu/katudoh/no4/inoue.html
より抜粋
天明三年(1783)の浅間山噴火で発生した「鎌原火砕流」は、浅間山北麓の鎌原村を埋没させた後、吾妻川に流入して火山泥流となり、吾妻川や利根川沿いに死者1400名にも上る大規模な泥流災害を引き起こしました。この土砂移動現象は、100km以上も下流まで流下していて、浅間山で発生した他の噴火現象による土砂移動とはかなり異なっています。
「鎌原火砕流」とは、天明噴火の最末期の七月八日(新暦8月5日)に突然流出して浅間山の北斜面を流れ下り、鎌原集落を襲ってほぼ全滅(高台にあった観音堂を除いて)にした後、吾妻川に流入して「天明泥流」となり、吾妻川・利根川を流下して(利根川河口と江戸川河口まで)、大災害を引き起こした非常に複雑な大規模土砂移動です。
「鎌原」→「天明泥流」は、非常に大規模な土砂移動現象であったため、多くの研究者によって研究がなされてきました。しかし、研究者によって、これらの現象の解釈や名称はまちまちで、鎌原火砕流,鎌原熱雲,二次(乾燥)粉体流,岩屑流,岩屑なだれ,土石なだれ,天明泥流,吾妻泥流,二次洪水,異常洪水などと記載され,混乱したままになっています。
(略)
鎌原観音堂や延命寺付近では、詳細な発掘調査が行われました(嬬恋村教育委員会,1981,94,児玉,1982,大石1986)。鎌原観音堂下の階段や延命寺跡地付近は、5m前後の土砂で覆われていましたが、高温の本質岩塊は少なく、埋蔵物はあまり焼けておらず、非常に新鮮でした。松島(1991)によれば、この堆積物中の本質岩塊の比率は10%以下で、大部分は浅間山の山体を構成していた土塊が、「鎌原」流下時に侵食されて取り込まれ、この地に堆積したものでした。
私達の調査では、6箇所のテストピットのうち、3箇所で本質岩塊の回りから水蒸気が上方に抜けたことを示すパイプ構造が認められました。このことは、流下・堆積当時、高温の本質岩塊の回りには、かなりの水分が存在したことを示しています。
絵図や古文書によれば、半円形の凹地付近には柳井沼と呼ばれる湖沼が存在し、周辺にはかつら井戸・用水などの湧水地や沼地を示す地名が多く存在します。
現在でも鬼押出しの末端部には、多くの湧水地が分布して嬬恋村の水源地があり、現在でも湿地状となっています。このため、鬼押出しの中腹に位置する半円形の凹地(長野原町営火山博物館内)の中央部で、72.6mの調査ボーリングを実施しました。その結果、地表から64.8mもの厚さで鬼押出し溶岩が存在し、鬼押出し溶岩を取り除くと地表面の形態以上の深い凹地(天明噴火前の柳井沼)が存在することが判明しました。
被害状況の現地調査を行った幕府勘定吟味役の根岸九郎左衛門は、「浅間山焼に付見聞覚書」(萩原Uのp.333)の中で、「此度浅間山焼にて、右の通泥石等押開候儀いずれより涌出し候哉の段、右起立の儀承糺候得共、浅間絶頂に御鉢と唱へ候所より涌こほれ候儀にも可有御座、又は中ふくより吹破候とも申候」と記されています。また、図-2に示したように、中腹噴火を描いた絵図も存在します。
この様な状況から判断しますと、「鎌原」は火山体の地下から噴出した高温の本質岩塊が火山体の斜面を高速で移動した時に、北麓斜面を激しく侵食し、そこにあった水分や土塊を取り込みながら、体積を大きく増大させて流下したと考えられます。従って、「鎌原」は通常言われているような火砕流Pyroclastic
flowではなく、「高温の本質岩塊(10%以下)と浅間山の山体を構成していた水分を多量に含んだ土塊が柳井沼の水を取り込んで流下した」と考えられます。私達は、岩塊を多く含んでいなかったため、このような現象を
土石なだれDebris avalanche
と名付けました。(略)
いのうえ・きみお 日本工営株式会社副技師長
砂防工学 共同研究「歴史資料と災害像」共同研究者
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